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とある一つの『愛』の話

 これはとある物語、ある一人の女の『心』が生きた証……。


 その子は周りの人々のように普通に生まれ、友達を作り、両親に愛されて育った。
 『心』をその名前に刻み込まれた彼女は『心』から人々を愛し、応えていった。
 いつしか年月が経ち、その彼女が十七歳となったある日二つの大きな出来事が起きる。
 一つは、彼女に愛する者ができた事……。
 二人は相思相愛で結ばれ、周りのみんなは心の底から祝福した。

 そしてもう一つ――。

 
彼女を愛する父親が事故で急死を遂げてしまった事。
 当日、彼は自分の娘を愛する男を一目見ようと仕事場から急いで家に帰ろうとしている時だった。当日の雨のせいで山肌が崩れそれに巻き込まれてしまった。
 彼女や母親も含め、彼を知る者は皆悲しみに暮れた。
 ある者は金銭的援助を申し出、ある者は二人に旅行に行くように言った。
 しかし、彼女と母親にとって昨日まで普通に存在していた父親が突然居なくなったショックは計り知れなかった。
 彼女は次第に自分の彼氏と今は亡き父親を照らし合わせ一層溺愛し、周りからは思いのほか早く立ち直ることができたため安心していた。
 母親もその後は気丈に振る舞い、皆が彼女たちの心配をしなくなって落ち着き始めた頃になった時だった。
 
 彼女の彼氏が忽然と姿を消したのだ。
 
心辺りをいくら探しても手ごたえは無く、動機にしたって順調で彼女と送る日々は幸せだったため全く見つからないのである。


 彼女は絶望に打ちひしがれた。


 家どころか部屋から一歩も出ない状況が何週間も続いた。


 母親は何度も彼女を呼び掛けたが一向に効果は無く、さらに半年が経った。


 たび重なる不幸のせいで母親も精神に病気を患い、誰かの手を借りないとその日の暮らしでさえもままならない状態だった。
 だが、そんな生活にも終止符が打たれる。
 部屋の中に閉じこもっていた彼女に一瞬だけ外に出ようと思ったのだ。

 魔が差した。というよりこの場合は光が差したのかもしれない。

 ドアを開け、ふらふらとダイニングに向かう。
 するとそこには母親が満面の笑みで彼女を迎えていた。

「……お帰り。ううん、今の時間ならこんにちはかしら?」

 再会を喜ぶ母親の顔には涙が一筋流れていた。
 早速、と食事の準備をする母親。
 彼女は久しぶりに見る母親の光景に何だか心が躍っていた。
 しばらくすると食卓に料理が並んだ。

「こうやって二人で食事をするのも久しぶりね……」

 母親はしみじみとつぶやく。

「……ごめんなさい」
「いいのよ、こうやってあなたが私と一緒に居るんですもの。ささ、食べなさい」

 その一言で二人に和やかな空気が流れる。
 会話も弾み、しばらく時間が経った頃。

「それにしてもこのお肉美味しいのね! お母さんは干し肉って言ったけどとてもそうには思えないわ。何のお肉? 良かったらこれを使って今度は私が料理を作るわ! お母さんも見てないで早く食べてよ」

 彼女は明るい声で聞く。

「このお肉?」

 母親は初めてフォークを持って皿の上の肉を刺す。
 しばらく眺めた後一口で食べた後何を思ったのか席を立ち、何かを机の上に置いた。

「これを干し肉にしたのよ!?」

そこに置いたのは彼女が引き籠ったきっかけとなった消えたはずの彼氏の顔のみが入った容器だった。

「なっ…………!」

 言葉になるはずもなかった。彼女は必死で洗面器に向かった。さっきまで食べていたものを吐き出す彼女を横目に母親は高らかに声を上げる。

「あの人が居なくなってからあなたは彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏彼氏ってうううう、うるさいのよ! わわわわわわ、私の生んだ子供はね、そんなことで母親を手放すような子じゃないわ。そんなに一緒に居たかったみたいだから私が願いをかなえてあげたのよ!!!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」

 つんざくような彼女の叫び声が響きわたる。

「あら? さささ、さっきはああああ、あんなにおいしいって言ってたのに今更どうしようたって仕方無いのよ」

 その一言を発端に、彼女は叫ぶのを止め一直線に母親に向かって行く。そして自分のその手でおもむろに母の胸を抉った。
 その様子は血が花弁のようで一輪の花を思わせる。
 彼女はその中心を貪る、まるで失った『心』を取り戻そうとするが如く――。
 その後の彼女の消息は誰も知らない、しかしその地域では頻繁に胸を抉られる人の死体が見つかるらしい。
今もなお彼女は『心』を求めて赤い花を咲かせ――。



 と、記述はそこで止まっている。
 本は開いたまま一人の男が机に突っ伏している。
 次第に白い紙の本は赤く染まり、その面積は広がって行く。
 彼を見下ろすように一人の若い女が立っていた。
 両手は真っ赤に染まり、純白だった服は赤黒い染みをこびり付かせて鈍く生々しい匂いと温もりを体に纏っている。
 彼女はやがて口を開く。
 赤く濡れ、鋭く尖った犬歯が月光を反射させる。
 濡れた口元を拭い、呼吸が乱れつつも顔ごと口を後頭部に近づける。
 「………………!」
 何かを感じたのか、彼女は顔を近付けるのを止めて後ろを振り向く。
「もう『心』も食べたしお腹いっぱいだわ。次の『心』を探しましょう。ね? あなた」
 それだけ言い残すと彼女は優雅に部屋から出て行く。
 心臓が抉れ、下半身が引きちぎられたような男の死体を机の上に乗せたまま……。
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